心を洗って香とし体を恭んで花とす

心を洗って香とし体を恭んで花とす

 この句はお大師さまが 「 大般若経 ( だいはんにゃきょう ) 転読 ( てんどく ) 願文 ( がんもん ) 」の中で、時の天皇に奉典された一節です。「苦しくても香のように清らかに、つらくても花のようにつつましく暮らしていこう」 と、お大師さまは香と花によせて、仏さまに仕える姿勢を端的に示されました。無法によって得たものでも、これを着れば美しく、それを食すれば栄養になります。しかし、魂は 昇華 ( しょうか ) されません。

 「持ったが苦」ということわざがありますが、苦しみを感じるような所有物は、はたして真に自分のものになるでしょうか。多くの物を得る事が、心も豊かにするというのはどうも物質社会の錯覚のようです。この世の幸福も、あの世の安楽も、物の量ではなく心の在り方にあるのです。

 すがすがしい香りは心を清めます。 清楚 ( せいそ ) な花は 貧 ( むさぼ ) りを 諌 ( いさ ) めます。他からもらうより、他に施す方が喜びに深みがあるように、香のような徳を、花のような優しさを、まわりに薫じていくという生き方を、お大師さまは、私たちに示しておられるのです。

 春彼岸をむかえお大師さまのお言葉を実のあるものにしたいものです。

平成12年8月1日